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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1377号 判決 1982年8月18日

裁判所書記官

安井博

(被告人の表示)

(一)

本店所在地 東京都大田区西蒲田七丁目六番四号

株式会社プリンス会館

右代表者代表取締役

林尾

林勝宗

林儀宗

(二)

国籍 無国籍

住居

東京都大田区久が原一丁目三三番九号

会社役員

林武宗

一九二〇年五月五日生

主文

1  被告人株式会社プリンス会館を罰金一五〇〇万円に、被告人林武宗を懲役一年にそれぞれ処する。

2  被告人林武宗に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社プリンス会館(以下「被告会社」という。)は、頭書所在地に本店を置き、キャバレー・飲食店等の経営を目的とする資本金九五〇万円の株式会社であり、被告人林武宗は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人林武宗は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上・雑収入の一部を除外して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八一五二万七五六四円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年五月三一日、東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号所在の所轄蒲田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三〇四八万三三八三円でこれに対する法人税額が一一一九万五二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一〇一四号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三一六一万二八〇〇円と右申告税額との差額二〇四一万七六〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七九二六万五八七九円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年五月三一日、前記蒲田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億二三二九万六五九九円でこれに対する法人税額が四八三二万三三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七〇七一万〇九〇〇円と右申告税額との差額二二三八万七六〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一、被告会社代表者林儀宗の当公判廷における供述

一、被告人林武宗の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書四通

一、林儀宗(二通)、林尾、亀井達朗、林勝宗、渡辺亨及び林徳宗の検察官に対する各供述調書

一、東京法務局大森出張所登記官作成の昭和五七年四月六日付登記簿謄本(ただし、三枚つづりのもの)

判示各事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき

一、押収してある法人税確定申告書二綴(昭和五七年押第一〇一四号の1、2)

判示各事実ことに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一、収税官吏作成の売上調査書(別紙(一)、(二)修正損益計算書の各勘定科目中<1>。以下の調査書も収税官吏の作成したしたもの)

一、検察官作成の捜査報告書(役員報酬)(同(一)の<5>、<47>、(二)の<5>、<45>)

一、役員報酬、賞与調査書(同(一)の<5>、<47>、(二)の<5>、<45>)

一、従業員給料調査書(同(一)、(二)の各<6>)

一、福利厚生費調査書(同<8>)

一、検察官作成の捜査報告書(交際費、交際費限度超過額) (同(一)の<18>、(二)の<19>、<46>)

一、雑費調査書(同(一)の<23>、(二)の<24>)

一、検察官作成の捜査報告書(募集費) (同(一)の<29>、(二)の<30>)

一、募集費調査書(同(一)の<29>、(二)の<30>)

一、受取利息調査書(同(一)の<30>、(二)の<31>)

一、雑収入調査書(同(一)の<32>、(二)の<33>)

一、地代収入調査書(同(一)の<52>、(二)の<50>)

一、検察官作成の捜査報告書(事業税認定損) (同(一)の<53>、(二)の<51>)

(法令の適用)

一、罰条

(一)  被告会社

各事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

(二)  被告人林武宗

各事実につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

二、刑種の選択

被告人林武宗につき、いずれも懲役刑選択

三、併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人林武宗

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)

四、刑の執行猶予

被告人林武宗につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、キャバレー、飲食店等の営業を目的とする被告会社が二事業年度にわたり合計四二八〇万円余の法人税をほ脱したという事案であり、ほ脱率は、昭和五四年三月期が六四パーセント、同五五年三月期が三一パーセントである。ところで、本件犯行の動機に関し、被告人林武宗ら被告会社の関係者は、被告会社の不況に備え、あるいは事業を拡張するため資金を蓄積しようとしたとか、同被告人らが日本国籍を有しないという理由で金融機関から思うように融資を受けられなかったことで日頃資金を蓄積しておく必要性を感じていたとか、キャバレーの業界ではホステスを引き抜く等の費用を捻出するため脱税をしているのは常識であった等述べているが、もとよりこれらの事情をもって脱税を正当化できないことはいうまでもなく、被告会社において右に述べたような事情が特に切実なものであったとも認められず、動機に関し被告人らに諒とすべき事情は認められない。また、被告人林武宗は本件の少なくとも二年前ごろから自ら指示して日々一定額の売上を除外し簿外預金を蓄積していたものであり、本件犯行において、被告会社の各営業所における営業上の責任者であった右被告人の二男林儀宗らもレジペーパーや日計表などの原始記録を破棄したうえ売上高を適当に減額した伝票を作出するなどして被告人林武宗の犯行に加担したほか、従業員の給料を架空計上したり、ホステスから厚生費等の名目で徴収した雑収入等を除外して簿外経費等に充てていたものであり、これら脱税の方法ないし態様は、計画的かつ巧妙であって、悪質な犯行というべきである。更に、被告会社は、昭和五五年一月税務署による調査を受け、給料の架空計上などを指摘され、同年四月に昭和五三年三月期及び同五四年三月期の修正申告をしたが、右調査において指摘されなかった部分を申告せず、いったん中止していた売上除外を調査終了後再開している事実も認められるのであって、被告人林武宗に所得税法違反の前科があること等を併せ考えると、被告人らの納税意識は甚だ希薄といわざるを得ない。

しかしながら、その反面において、被告人林武宗ら本件犯行に関与した被告会社の関係者は本件発覚後その非を悟り犯罪事実を認めるに至り、当公判廷においては、犯行を繰り返えさない旨確約していること、被告会社において修正申告をしたうえ本件各事業年度分の国税を納付済であり、地方税についても通知のあり次第納付する旨約束していること、被告人林武宗は本件後被告会社を退き、前記林儀宗ら三名が被告会社の代表取締役に就任したが、林儀宗は当公判廷に出頭し、今後経理内容を従業員らにも開示する等脱税のできないような経理態勢をとるとともに脱税の誘惑の多いキャバレー業から漸次手を引く意向である旨供述していること、一方、被告人林武宗は本件で最高責任者であったことの刑事責任は免れないところではあるが、前記売上金除外を除いた脱税工作は専ら林儀宗らが主導的立場で敢行したものであって、本件ではこれによる脱税額が全体からみて相当の割合を占めること、同被告人には前科はあるが、一六年も前のことでその後本件まで刑事責任を問われたことがないこと、同被告人の年齢等被告人らに有利な情状も認められるので、これらの事情をも総合勘案したうえ、同被告人の刑については特に執行猶予を付し、それぞれ主文のとおり刑を量定した次第である。

(求刑 被告会社罰金一八〇〇万円、被告人林武宗懲役一年)

よって主文のとおり判決する。

出席検察官 江川功

弁護人 加藤礼敏

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 プリンス会館

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

<省略>

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社 プリンス会館

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

<省略>

<省略>

別紙(三)

税額計算書

<省略>

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